今まで胸の中にある教訓を、大事に守って来た由記子にとって、それは自分が傷付かず生きる為に、必要な約束事だったからだが、相手を信じ傷付いたとして、それが恋愛でも由記子には心の奥にある、教訓を破る事などできないのだ。
求めても本当に欲しいものは掴めないのか、どこかに焦りを感じる由記子を、諦めの悪い嫌な女に思えた。
珍しくA子が職場の悪口を言った。頷く由記子の鈍い反応にA子が「ねえ、最近遊びに行ってる?」由記子が頭を横に振るとA子が「ホストクラブとかさ、一度あるけどお金が高くて行けないわ」意外な話をしてくるA子に、由記子は知ったか振りで頷くだけだった。
するとA子が更に「ゲイバーとかも面白いわよ」ようやく由記子が「ゲイバー好きなの?」と確かめた。「ううん」そう言って口を閉じたA子に、やっぱりと思いながら由記子は、仕事帰りでの居酒屋で、グラスに入ったビールを一気に飲んだ。
「それじゃ、レズビアンバーって知ってる?」と聞かれて思わず由記子は戸惑った。あのA子がレズビアンバーに行くだろうか、その問いに答えるようにA子が言った。
「誘われて一度行った事があるのよ」
疑うような目で由記子が聞いた。
「少し興味あるけどお金高いんでしょ」と。「ううん、そこは普通のスナックだったの」聞き返す由記子に脈ありと見たA子が、「ねえ一度その店行ってみる?」顔色を窺うように言うA子に、余計な詮索されるのも嫌な由記子は「そうね、一度ぐらいなら」と何処か素っ気ない態度を見せていた。
A子のレズビアンの話に、夢中な顔で話したとしたら、男だってゲイの話に熱心だと、おかしな目で見られるのだ。
近頃トランスジェンダーと言う言葉を、理解する人達が声を上げるが、何にしても冷たくもなく優しくもない、そんな日々が今の由記子には理想であって心地よいと思えたのだ。
そう言えば懐かしくもあるが、忘れたくもある出来事を思い出したのだ。仲良くなった友達のアパートに行った時、もうすぐ結婚すると言った彼女は、前は住み込みで料理屋に居たと話した。
だからか料理の腕前はプロ並みで、その夜、作ってくれた豚カツは、とても美味しかったのを覚えていた。
由記子が知っている友達と言えば、薬と酒を一緒に飲む女だったから、まるで違う二人の若い女の生き方に、それは生まれなのか環境なのか、ふと訳のない事だと思う由記子だった。
友達の部屋にある大き過ぎるベッドを、どこか妙な感覚で由記子は見ていた。銭湯に行った後は友達のベッドに横になった由記子に、友達は結婚する彼の事を話し始めた。
彼を思い出すのか、彼に会えない寂しさからか、彼女は由記子に擦り寄ってきたのだ。二歳年下で妹のような可愛らしさに、思わず彼女を抱きしめキスをしたが、女同士の二人には何の意味もないことだったのだろう。
【イチオシ記事】彼には彼女がいるのに…抱き寄せられた。キスは首筋から胸の膨らみへと移り、甘ったるい声が漏れて…
【注目記事】マッチングアプリで出会った男性と初めてのデート。食事が終わったタイミングで「じゃあ行こうか。部屋を取ってある」と言われ…
ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp