【前回記事を読む】黒薔薇は犯人からのメッセージか――遺体に残された黒薔薇の意味を探るも、謎は深まるばかりで……

零章 第一の殺人

◇3◇

沢渡が、慌てて神木の口を掌で塞いだ。

「お前ね! 今、空閑さんが言ったこと聞いていなかったのか? 少しは口を慎め! わかったか!」

「ウググッグ……!」

神木は右手に缶コーヒー、左手にバッグを持っていたので、塞がれている沢渡の手を引き剥がすことができない無抵抗の状態だ。

神木は、大きく開けた両目を沢渡に向けると、細かく何度も頷いた。

それを見た沢渡は、掌を口から剥がし神木の肩に手を置くと、2、3回掌を拭った。

「ハアアー、苦しかった。死ぬかと思いました! 冗談にしてはちょっとやりすぎではないですか沢渡さん!」

「ハハッハー!」

空閑が、意外に大きな声で笑った。

「ここで聞いたことは二度と言うなよ」

沢渡が、神木の耳の傍(そば)まで顔を近づけると押し殺した声で言った。

「わかりました。二度と言いません」

神木は本気だと思ったのだろう、顔から血の気が引いた。

「お遊びは、そのくらいにして、そろそろ仕事に行くか」

空閑は一言言って、階段に向かって歩き始めた。

「お前な! 今度はただじゃ済まねえぞ!」

沢渡は捨て台詞を吐き捨てて、小走りに空閑の後を追った。

「ここは、ヤーさんの事務所か?」

神木は独りゴチタ。