【前回記事を読む】「し、し、し、し、支配人!」「お客さんが、シッ、シン、死んでいます」ゲイ専門ホテルで見つかった遺体には…

零章 第一の殺人

◇2◇

新宿二丁目のゲイ専門ラブホ「XOX」801号室では、新宿警察刑事鑑識課機動鑑識係の鑑識作業が始まっていた。同時に機動捜査隊も現場に到着した。

その後、所轄の沢渡(さわたり)刑事が現場に到着し、死体を確認した。

被害者は全裸。湯のないバスタブの底にうつ伏せの状態で臀部を突き出すように突っ伏していた。

青白い臀部は死人とは思えぬ張りと艶があった。しかもアヌスに一輪の黒薔薇が、深々と刺し込まれていた。その花冠は直径が優に10cmを超えた大輪だ。

花冠は頼りなげに、ゆらゆらと揺れていた。

8月10日、新宿警察署に新宿二丁目ホテル殺人事件特別捜査本部が設置された。

本庁・捜査一課の刑事空閑(くが)匡亮(きょうすけ)警部補と所轄・新宿署刑事課の沢渡慎之助(しんのすけ)巡査部長は事件当日午後11時から行われた捜査会議の会場にいた。

大会議室に集められた捜査員は30名を優に超えていた。事件概要の説明が行われた後で二人は、相棒として敷鑑班に割り振られた。被害者の人間関係を洗い、殺害する動機を持つ関係者を探し出すのが敷鑑の仕事だ。

会議の後、空閑・沢渡の二人は本件の陣頭指揮を執る五十嵐管理官から、事件の概要を推察できるよう、今までに判明した事実を整理しながら、被害者の身元が判明するまで現場で押収した証拠品を手がかりに捜査を開始するよう言い渡された。

二人の刑事はお互いに初対面だった。刑事課に戻ると廊下側に置かれた打ち合わせテーブルに二人は向き合って座った。