【前回の記事を読む】家庭訪問で何度も家に上がってくる中学の担任。学校を休みがちだが、息子に大きな問題があるわけではなく……

第三景 歩夢

やがてストレスから解放された歩夢は、自宅で自主的に勉強をするようになった。そんな生活がほぼ半年過ぎた中二の四月から、先輩の家庭教師センターを通じて、俺が歩夢の勉強を見ることになった。

初めて訪問したときに、これまでの中学入学からの経緯をお母さんから聞いた。その上で、どのような指導方針を望んでいるのかを尋ねた。

「うちは母子家庭です。甘いと思われるかも知れませんが、父親がいないことをハンデと思わないように、歩夢の考えを尊重し育ててきました。家庭教師の件も、歩夢からの要望なんです。生活はそれほど豊かではありませんが、歩夢が望むのであればとお願いした次第です」

「そうですか。学習意欲の強いお子さんなんですね」

「ええ、親バカと思われるかも知れませんが、やればできる子なんです」

やればできるは魔法の言葉ではない。そうして根拠のない思い込みを先生や親戚に吹聴し、ゲームで夜更かしするような生活態度を改めさせる行動をとらない親も多いことだろう。冷静に分析すれば容易に想像できるはずなのに、当事者になるとややもすれば客観視できないものなのだ。

やればできる子かどうかは初回の授業で大体つかめる。

「あぁそうそう、歩夢を呼んでもいいですか?」

「もちろんです」

それほど間をおかず、お母さんとともに歩夢がリビングにやってきた。

「先生、こんにちは」

やや伏し目がちながらも、きちんと挨拶ができる子どもである。

「さっき、お母さんと話してたんだけど、お母さんは、勉強の方針を歩夢君と俺との間で決めてくれていいと言っている。歩夢君は何の教科に力をいれたいかな?」

「他人と比べる物差しがないから、正直わかんない。ずっと自習だったから」

「じゃあ、中一の定期テスト対策の問題集でもやってみるか。今度までに本屋さんで買ってくるよ」

今回はお母さんからヒアリングをし、テレビ番組の話や、お互い、今ハマってることなどを話し、歩夢の気持ちを和らげるよう努めた。

二回目の授業、今日は歩夢の実力がどのくらいのものなのか試す日だ。実際の定期テストさながら、時間を計って問題を解いてもらう。歩夢との授業は二時間なので、今回は一時間ずつ数学と英語をすることにした。