【前回の記事を読む】妊娠させてしまった高校時代の彼女に会いたい――あの頃目を背けて逃げた僕は、たとえ今さらでも彼女に謝りたい
第五章
明里さんにしては似つかわしくないほどに謙遜するが、僕からしたらあまりにもすごいことだ。誇るべき事実だ。だから、僕は大袈裟でなく褒めた。僕が褒めの言葉を口にする度に、明里さんは照れながらも嬉しそうにしている。
「こういうの、向いているんだね」
「向いているっていうのかな。どうなんだろう」
「銀行員よりよっぽど明里さんに合っていると思うよ」
「ありがとう。でも、うちお父さんが厳しくてさ。なんていうか、堅いんだよね」
晴天に突如として雲が立ち込めてきたように、明里さんの表情は陰っていく。
「でも、ありがとう。優くんのおかげですごく嬉しかったよ! 人をあんまり褒めない人から言われると、やっぱり嬉しさの度合いが違うよね」
「ちょっと、そんなことないよ。いいものは褒めるよ」
「そうかなぁ。それにしては、私に対しての褒めが足りないんじゃない?」
明里さんはいたずらっぽく笑う。
「いや、このカフェほんとすごいよ。また来てもいいかな?なんだかいい匂いもするしさ。みんな同じ時間を過ごしているのに、まるで自分だけの時間が流れているみたいな。絵本とかによく出てきそうな感じがするね」
前園さんは僕の口から発せられる褒め言葉にいちいち反応する。それがおかしくて、でも本心から僕は褒めちぎった。
彼女が考案したデザインのカフェは、夜になると星が煌めく幻想的な森へと移り変わった。昼間は静かなカフェとして、夜はムーディーなレストランとして、いつ来ても違う楽しみ方ができるのがコンセプトだという。
「地元の星空を見てるみたい」
僕は故郷の夜空を想った。よく空を見渡せる丘の原っぱの上で、遥香と見上げながら星を目で追い、それを数えたりした。このカフェの天井と地元の星空では全然違うはずなのに、どうしてこんなにも遥香を思い出せるのだろう。まるで遥香と会話をしているような気持ちになる。
「あ! 流れ星! ねえ、見た?」
「えー、見えなかったよ」
「見ないとだめだよ。お願い事叶わなくなるよ」
「遥香はなにを願ったの?」
「うーん……、優くんと、ずっと一緒にいれたらいいなって」
少し恥ずかしそうにはにかむ遥香の顔が、鮮明に記憶に蘇る。
目頭が熱くなり、視界がぼやけた。
「どうかした?」前園さんが暗い店内で、前の席から訊ねてくる。
「なんでもないよ。本当に綺麗だね」
彼女に顔を見られないように、笑ってハンカチで顔を拭く。
僕らはそのまま星空の下でディナーを堪能した。店内はさることながら、その店の食事はどれも絶品で、僕は久々に友達と美味しい時間を共有した。