【前回の記事を読む】高校時代に元カノとの間にできた子どもに会うことに…玄関から走ってきた3歳のわが子に「お兄さん、だれ?」と聞かれた私は……
第七章
「本当に元気な子ですね」
「あなた、自分のこと言わなくてよかったの?」
由紀子さんは不思議がるような表情で、僕に訊ねる。
「いいんです。遥香さんや皆さんの愛情をいっぱいに受けて育っていることがよくわかりました。僕は悔しいですが、やっぱりまだ遥香さんのような強い人間にはなれません。まだまだ臆病なんです。きっと僕が加わったら、せっかく皆さんが築いた優香ちゃんを、台無しにしてしまう。いつか僕が遥香さんと同じくらい立派な人になったら、そのときにまた会わせてください。
遥香さんは僕に、自分のことは構わずに生きてほしいと言いましたが、それは無理です。彼女みたいにまっすぐで、優しくて、強い人に僕は出会ったことがありません。これからも遥香さんは、僕にとっての指針で、大好きで大切な人です」
「あなた、本当に変わったわね」
由紀子さんは僕に笑顔を向けると、嬉しそうに言った。
それから僕はまた仏壇の前に移動して、手を合わせた。無駄な感情も雑念もなく、まっさらな心で遥香と話せたような気がした。
別れ際に僕は遥香のお墓の場所を訊くことにした。誰かを想って、一生懸命に生きる。そんな愛情が当たり前のものとして溢れているこの家に、今の僕が足を踏み入れるのは違う気がする。それでも、彼女のお墓参りはしたいと思った。これからも定期的に足を運んで、彼女と話がしたいと思ったのだ。
「遥香のお墓は、白ヶ丘にあるわよ」
「白ヶ丘……、ですか」
「そう。少し遠いんだけどね。気持ちいい風が吹いていて、いい場所なのよ。行ったことある?」
「はい、あります。あのその場所に遥香のお墓があることって、他にも知っている人はいますか?」
「うーん、そうね。遥香のお友達にも、あの子の意向で亡くなったことを言ってないし……」
由紀子さんはしばらく黙って考えこんだ後、思い出したようにぱっと顔を上げた。