菊之丞油見世松七郎は昔のことを思い出しながら、もう二年かと思った。大倉の旦那の命令で今までやったことのない芝居見世の仕事にはいくらか慣れてきた。市村座の前を通り、堺町の中村座の前を通る。人形町通りにぶつかると菊之丞の見世が見える。健三がいた。見世番である。健三は松七郎の数少ない親戚である。「おはよう!」松七郎は健三の目を見て言った。「おはよう御座います、松兄。秋になりましたね」路考茶の着物を着た…
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