古代人の観念
「お父さん、ドンマイドンマイ」明日美が応援している。
「あと質問はありませんね、それでは続けます。角塚古墳との関係ですが、あれは私がいた時代には存在していなかった墳墓です。あなたたちの知識から察するに、あの場所は夫の一族が拠点にしていたところであり、おそらく双子の弟方の子孫が眠る墳墓だと考えられます。天見姫の弟の子孫というわけですね。
ともあれこの墓はその夫一族の協力のもとに造られたのです。わざわざきてもらい、今の祠のある周辺にキャンプを張って作業をしていました。
盗掘者などの要らぬ詮索を誘わないためにその住居跡を葺石で覆い隠したのです。付近に住居跡がないのはそのせいなのです。私が依頼した通りの完成度で文句のつけどころがありません。
角塚古墳との関係は今のところ、まだこの程度しかわからないのですけどよろしいでしょうか」
首を傾げながら明日美が小さく手を挙げていた。「ここの上にあるのが葺石で覆った疑似古墳だとしても逆に、それを知らない盗掘者や考古学者の興味をあおる事態になると思うんですけど、どうなんでしょうね。姫様」
的を射た質問に自信ありげな表情の明日美を見つめ、卑弥呼が答える。
「明日美、あなたはまだ少々人間の深層心理というものがよくわかっていないようですね。説明が長く難解になるので、かいつまんで話しますからよく聞きなさいよ。
これら2基の墳墓は短期間で同時に完成させる必要があり、合理性を考え工夫を1か所に集中し作業にあたったため、このような構造となってしまったのです。あなたたちの想像通り、上の疑似古墳と通路で繋がっています。入り口を発見できたとしてもここには容易に到達することはできないでしょう。
それは入り口を巨石でふさいであり、現在の技術をもってしても発見とその巨石の除去は困難だからです。しかも上の疑似古墳はわざわざ破壊した石棺を埋設して、巧妙に偽盗掘跡を造ったもので、私でも騙されるほどの高い完成度なのです」
「そうか、そういうことだったのか」佳津彦がつぶやいた。
「それに盗掘跡が残り荒れ放題の、野良古墳と呼ばれ放置されている墳墓が沢山あるのを知っているでしょう。盗掘にあった古墳には関心がなくなるのが人間の心情というもので、このほうが逆に安全性が高いのですよ。
しかしながら少しばかり気になることがあるのです。嘘を固めて造ったようなあの疑似古墳に、何かしらの秘密があるのか、女の誠の愛と執念を感じるのです。
必要になるかもしれませんので、ここの調査も佳津彦に任せます。あなたの封じられた能力を解放しておきますので、あなたにできるはずです。頼みましたよ。その能力の説明も後でしますね」
自分の能力が何かわかっていなかった佳津彦は、降って湧いたような話に驚いて、目がテンになっていた。