景浦は良三の隣に腰を下ろした。近頃は立つ・座るという動作をするたびに膝が痛むのだがこの時も例外ではなく、思わず呻き声に近いものが漏れてしまう。
「大丈夫か」
「まぁな。年が年なんで軟骨がすり減ってこのザマだ」
「ほーん。雄作でもそうなるのか」
「年を取れば誰だってな。それよりお前、今日は何か言いたいことがあるんじゃないか?」
「……別にねぇよ、そんなもん」
「嘘を吐くならもっとマシな理由くらい考えとけ」
「相変わらず察しがいいなぁ雄作は。男はもっとバカなくらいでちょうどいいぞ」
「俺のことはどうでもいいからさっさと本題に入れ。なにか相談でもあるんだろ。言っとくが誤魔化すなよ。まどろっこしいのは嫌いなんだ」
「分かったよ、うるせぇな……」
良三は大儀そうに上体を起こし、あぐらをかいたまま池の鯉をぼうっと眺めるばかりで本題に入る気配がない。
おそらく頭の中でどう話すかを組み立てているのだろうと踏んだ景浦は気を使って台所に引っ込んだ。
温かい茶と良三の好物であるようかんでも出せば口も滑らかになるはずだ、と。
ややあって景浦が戻ると同時に良三は「昨日の晩飯ん時によぉ、若菜が医学部に通いたいって言い出したんだ」と切り出した。
「医学部、か」
一口に医者といっても内科医、外科医、眼科医や歯科医などピンキリであるが、当面の問題がそこではないことは確かだ。
「お前……金はあるのか」
「あると思うか? 孫を医学部へ通わせられるだけの金が、こんなどこにでもいる年金暮らしの老いぼれに」
次回更新は4月18日(土)、11時の予定です。
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