前日の約束通り、良三は朝から景浦の自宅に顔を出したが、どこか様子が違っていた。
何かあったのかと訊いても誤魔化すばかりで要領を得ず、いつもと同じように縁側でオセロにでも興じるのかと思いきや「ちょっとコレ借りて良いか」と訊ね、返事を聞く前に棚から何冊かの漫画本を抜き出す始末だ。
良三は横になって肘をつくという行儀の悪い姿勢でページを繰っていくが、目が内容を追っているようには見えない。勝手に住み着いた猫のように自由な男だ。
本当に猫ならばまだ可愛げがあるが、残念なことにここに居るのは枯れ木のような老人である。
やがて景浦は限界を迎えたのか、良三が読んでいる漫画を強引に奪った。
「おーい、何すんだよ。返せよ、俺のブラックジャック」
「やかましい。だいいちお前、ブラックジャックなんか何回も読んでるだろうが」
「名作は何度読んでも面白いんだよ。若菜だって好きだぞ。だから……」
「だから、なんだ?」
「いや、なんでもねぇ」
「なんだよ、気になるだろ。いいから話せ」
「イヤったらイヤだ」
「ダダをこねるない。いい加減にしろ」
「うるせぇなぁ。そういうところ、ブラックジャックにそっくりだよ」
「……ワシにブラックジャックだと誉め言葉になるぞ」
「何度でも言ってやるよ。ゴッドハンド先生よぉ」
「その呼び名はよせ。こっ恥ずかしい。引退して何年経ったと思ってるんだ」
「ゴッドハンド」
「おいコラ」