【前回記事を読む】「意識もしっかりして、会話もできていたのに」…全身やけどの死因のほとんどは、その後にある。徐々に血圧が落ち…

Case:B 元・医者の選択

*二〇一九年

 

「ずいぶんあっさりと受け入れたんですね」

「不満か?」

「別に……。それで若菜ちゃんは結局どうなったんですか?」

「そう焦るなよ。今だってどう順序立てて話そうか考えてるんだ」

「……ホントですか?」

「感情的になって結論を急ぐのは昔からキミの悪い癖だ。とりあえず結果から言う。順当に行けば若菜ちゃんは通っている大学を来年の三月に卒業する」

「それじゃあ、景浦さんは……」

「あぁ、もういない。彼が存在した痕跡もろともこの世から消えた」

初めて聞く話ではないのに、葵はまた東がこの世から消失した時と同じようなショックを受けた。それだけでなく、虚無感も。

「その、景浦さんって心臓外科医だったんですよね? 景浦さんがいないなら今までに手術を受けた人たちまで死んじゃったってことですか?」

「いや、その点は心配いらない。景浦さんが執刀した患者は別の医者から手術を受けたことに書き換えられた」

「そうですか……」

「信じろと強制するつもりはない。だが俺が変わるきっかけになった事例を聞いてほしかったんだ」

「そのほうが正しいと思ったから課長は淡々と仕事をこなすようになったんですか」

「あぁ。景浦さんのような価値観や死生観を持った人は新米の俺にはなかなか衝撃的だった。新鮮でもあったし、尊敬もした」

「でも、若菜ちゃんの立場で考えたら本当に正しいと言えるんでしょうか?」

それは景浦の話を聞いてからずっと引っかかっていたことだった。課長は口を挟まず、『続けて』と言わんばかりに目と目を合わせてくる。

「だって……だって若菜ちゃんは家族を失って、仲の良かった景浦さんまでいなくなって、そのうえ身体に火傷の痕まで残っちゃうなんて……私には耐えられません。そりゃ、命あってなんぼかもしれませんけど」

「なるほど。さすが女性らしい観点だ。キミの言うことももっともだと思う。

若菜ちゃんは体の広範囲に火傷を負った。皮膚移植などの手術を複数回受けて目立たなくなりつつあるが、それでも完全に元通りとはいかないだろう。身寄りを亡くし、数々の苦難を味わう人生を強制的に歩まされたといっても過言ではない。いっそのこと、死んだほうが楽だったんじゃないかと思えるほどの、な」

「それならなおさら――」

「そこまで心配なら直接本人に会ってみるといい」

「え……」

「若菜ちゃんは、いや、もうちゃん付けで呼ぶような年でもないか。若菜さんは来年の三月、だから四ヶ月後に大学を卒業すると言ったろ?」

「それが何か……あ」

課長は十年前の話をすると前置きしていた。ならば当時中学二年生だった若菜は今年で二十四歳だ。それなのに大学を卒業するのが来年の三月。もちろん浪人や留年の可能性だってある。だがこの答えが最も自然なはずだ。

「会えるうちに会っておいたほうがいい。来年の今ごろは研修医で大忙しだろうから」