3 中脳にある「腹側被蓋野(ふくそくひがいや)(A10)」の細胞がドーパミンを産生し、側坐核や中隔など辺縁系にある快情動神経核に放出している。「中脳辺縁系ドーパミンシステム」という。
4 古くは視覚に関与していると考えられ、この名称が付いたようである。解剖学における名称、特に脳の各部の名称は、西欧の医学において歴史的に決められたものであり、名付けルールはない。何かの形に似ているからそう付けられたもの(例:扁桃体〔アーモンドに似ている〕、松果体〔まつぼっくりに似ている〕など)、機能を推定して付けたもの(視床など)など、さまざまである。命名時点では何の働きをしているのか、まったく不明であったからである。医学生はひたすら覚えるしかない。
5 病気の治療目的ではないので“実験”である。てんかんなどの患者に皮膚と頭蓋骨だけ麻酔をし、覚醒した状態で脳を電気刺激して実験した。大脳の表面に電極を当てると、患者は体のどこかを触られているように感じ、その場所や気分を回答した。
その結果、頭と顔を触られていると感じる部分が頭頂葉の下方に、下肢や足を触れられていると感じる部分が上方にあることが判明した。
6 彼にとっては幸いであった。もしも痛み、ましてや激痛を感じる場所を刺激したら、手術室は阿鼻叫喚である。今日では痛みに関わる大脳皮質は、島、前帯状回、前頭前野腹側部などだとわかっている。
この“実験”は現代では倫理的に追試困難と思われたが、2020年にスタンフォード大学が実験を行っていた。より深部にある帯状回や脳底部皮質の刺激を行ったが(島皮質は刺激されていない)、痛みは誘発されなかった。痛みに関わるのはやはり島皮質なのかもしれない。患者を対象とした“実験的”研究も、欧米では患者と臨床倫理委員会の同意があれば行われることがある。
【参考文献】
(1)ヴィクトリア・ブレイスウェイト、高橋洋 訳『魚は痛みを感じるか?』紀伊國屋書店、2012年
(2)ジョセフ・ルドゥー、松本元 川村光毅 小幡邦彦ほか訳『エモーショナル・ブレイン 情動の脳科学』第4刷、東京大学出版会、2015年
(3)ワイルダー・ペンフィールド、塚田裕三 山河宏 訳『脳と心の正体』法政大学出版局、1987年
次回更新は8月1日(金)、8時の予定です。