プロローグ
T氏は長引く腰痛に悩まされていました。一刻も早く治したいと願った彼は「腰痛治療の名人」を探し求め、長い旅に出ます。
最初の整形外科医には「異常なし」と言われ、それで終わり。続いて行った整体院では「姿勢がわるい」と言われ、整骨院では「インナーマッスル結硬(こうけつ)」ということでもみほぐしを受けたうえ、
〝カリスマ先生〟に「背骨の歪み」の整復を受けるも治らずに見放され、別の整形外科医には「椎間板ヘルニア、蓋臼(きゅうがい)形成不全、脊柱管狭窄症。運動療法を一生やるよう」と宣告され、
〝内視鏡手術の名医〟には「椎間板変性だ。手術はできない」と突き放され、理学療法士には「PNF療法」を受け、愛犬のかかりつけの獣医に鍼を打ってもらい、藁にもすがる想いの〝超能力者〟のパワーは1日しか効かず、
〝鍼の大家〟には「鍼では治らない」とそっぽを向かれ、別の整形外科〝名医〟には「原因不明」とされ、そして心療内科医には「典型的な心因性腰痛」と抗うつ薬と睡眠薬を処方され……。 このエピソードは実話(!!)です。T氏とは……もちろん、私ではなく「冒険家にして辺境作家」の高野秀行さんのこと。高野さんの名著(怪著?)『腰痛探検家』(集英社文庫)(1)は文庫本で手に入るので、ぜひお読み下さい。