視床外側部、島(後部)、頭頂葉体性感覚野〜感覚処理部門〜

脊髄からの「進化的に新しい経路」である「新脊髄視床路」の二次求心性線維を上行した信号は、間脳の「視床外側部」に至ります〔図3〕。視床外側部《課》には侵害感覚だけでなく触覚や関節位置覚などの内感覚、そして視覚や聴覚など環境からの外感覚も伝えられています4

視床外側部は侵害感覚の空間的範囲、信号強度などを調整します。視床外側部はいわば《感覚情報の総合管理課》です。視床外側部には頭から足先に至る体全体の構造が「ボディマップ」として再現されています。

視床外側部で処理された侵害感覚は大脳皮質に送られます。

ひとつは頭頂葉にある「体性感覚野」《部長》です。体性感覚野では頭から足に至る体表の領域区分がそのまま再現されており、医学書には印象的な奇妙に歪んだ人間の絵(ホムンクルス)として描かれています。

1950年代、カナダの脳神経外科医ワイルダー・ペンフィールドは自分の患者に“実験台”になってもらい5、体性感覚野における体の詳細な地図を確立しました(3)。ペンフィールドの研究結果で注目すべき点は、被験者はいずれも体に触れられているような違和感を覚えたものの、痛みは感じなかったという事実です。

つまり、頭頂葉の体性感覚野の神経活動だけでは痛みは知覚されないことがわかったのです6。今日では頭頂葉体性感覚野はおもに皮膚の触覚を担っていることが判明しています。

空間情報のもうひとつは、脳の奥にある「島(とう)皮質(後部)《部長》」に送られます。痛みとして知覚されるには島の細胞の活動が不可欠です。体性感覚野は身体感覚全体の空間処理をしています。

一方、fMRIの研究結果から腰痛の場合はおもに島が痛みの感覚(空間定位)に関わっているようです。島は身体感覚のなかでもおもに痛みを担当する《古参部長?》のような存在といえるでしょう。島ではホムンクルスは確認されていません。つまり腰痛の空間分解能が低いということの臨床的な事実の一因と思われます。

写真を拡大 図2:脊髄
写真を拡大 図3:脳幹と大脳

1 辺縁系に含まれる部位は、本来は間脳(視床下部、視床内側部、中隔)、側頭葉(扁桃体と海馬)、前帯状回皮質であるが、より広義には島皮質や前頭前野内側部(側坐核がある)、前頭前野眼窩部をも含めることがある。

2 ということは、魚も不快情動を体験している? 科学者はまさにそのように主張している(1)。動物の痛みについて年々やかましくなっているが(タコやロブスターを生きたまま茹でてはいけない!)、これは人類がにわかに動物愛護に目覚めたからだけではなく、それを支持する科学的証拠が出てきたからである。