「感覚」:

一般社会でも多用される用語ですが、医学で扱う「感覚」とは刺激を体に存在する神経の受容器がとらえ、それが脳に伝わったものです。

感覚には外感覚(視覚、聴覚、嗅覚)、体表感覚(触覚、皮膚痛覚、味覚)、内感覚(運動器、内臓、血管など)があります1。感覚に似た言葉に「知覚」がありますが、こちらは感覚が脳に届いて意識されたものです2。つまり「知覚されない感覚」もたくさんあるのです。

実際、内感覚の多くは脳に伝えられていますが、知覚されません。運動器、内臓からの感覚の多くは知覚されません。ほぼ必ず知覚される痛みは、身体感覚としては実は例外的なのです。さらに、IASP定義における感覚の意味はより限定的です。「痛みの感覚面」とは「空間的、強度的、時間的」要素のことです。つまり痛みが「どこに、どの程度の強さで、続いているか」を意味するのです。

この後、「痛みの生理」で解説しますが、痛みの感覚が脳でどのように生じるかは少しずつ明らかにされているものの、情動に比べると、また同じ感覚でも視覚(光の知覚)に比べると、研究が遅れており不明な点が多いのが実情です。

痛み、特に運動器の痛みが脳でどのように処理されているかに関する疼痛科学的研究は、発展途上といってよい状況です。


1 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚を「五感」という。

2  知覚という言葉にはさまざまな語義があり、医学でも分野によって異なる意味で使われているが、本書では「意識された感覚、体験された感覚」を知覚と呼ぶ。

次回更新は7月24日(木)、8時の予定です。

 

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