「ところでお金の件にはまだ触れていませんでしたね」

気を取り直した珠輝は、保の話に耳を傾けた。

「私どもの施術所では、給料は出来高払いの歩合制です。住み込みの場合は折半の五分五分です。お金はその場その場で支払います。その方がお互い便利ですからね」

珠輝が良く理解していないと見て取った多喜子夫人が、

「折半というのは、施術したお金を患者さんから四百円頂きますね、すると、あなたが二百円取って、後の二百円をうちに頂くのです。分かっていただけましたか?」

「よく分かりました。で、月にどのくらいの収入になるのですか?」

「月によって多少のばらつきはありますが、一万四、五千円にはなりますよ」

多喜子夫人が答えた。珠輝にとって悪い話ではなかった。同じ博多でも友里ちゃんより収入は少ないが、炭鉱町の施術所より遥かに好条件だと判断した。珠輝は金倉鍼灸院で働きたいと思った。

「お話はよく分かりました。このことを施設の寮長先生に報告し、担任の先生にも話さなければなりません。もしお宅で使っていただけるのなら、就職支度金の関係で、お宅に雇い入れる旨の証明書が必要だそうです。その証明書は書いていただけますか」

「お安いことです。うちの住所と電話番号を書いておきますから、良いお返事を聞かせてください。それから、これはお土産です」

そう言いながら、金倉保は珠輝の手にメモ用紙と紙袋を渡した。紙袋にはガムとチョコレートがたくさん入っていた。

「そうそう、検定試験はがんばってくださいね。あなたなら合格間違いなしと、下平さんの折り紙つきですから、私どもは心配はしていませんけどね」多喜子夫人がそう言った。

次回更新は8月14日(木)、21時の予定です。

 

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