【前回の記事を読む】目の見えない私のもとに現れたのは就職のスカウトだった。嬉しくて舞い上がっていたが、うますぎる話に私は不信感を覚え…

第一章 向日葵のように太陽に向かって

「ありがとうございます。合格を目指してがんばります」

珠輝は力強く言葉を返し、彼等に深々と頭を下げた。間もなく金倉一家は帰っていった。

(私は今の人の施術所にスカウトされたのだ。自分にも幸運は舞い降りたのだ)

珠輝の全身を、かつて味わったことのない喜びが駆け巡った。

施設に帰った珠輝は、渡されたメモ用紙を握りしめ、寮長に今日のいきさつを報告する ため、事務室へ向かった。

かつての珠輝は事務室に呼び出されるたび、行きは何を言われるか分からない不安に怯え足取りは重く、帰りは寮長や保母長らの理不尽な言いがかりと折檻(せっかん)、さらに言葉の暴力に打ちのめされ、言い知れぬ怒りと涙で歩いたものだった。

だが、あとわずかでこの廊下を歩かなくて済む。しかし喜びは沸かなかった。珠輝の心はそれだけ職員に対して凍てついていた。

珠輝だけではない、事務室に続くこの廊下こそ、いわれのない職員らの待虐(ぎゃくたい)を受けた何人もの生徒の流した涙の溜まり場だ。

それらを振り返りつつ事務室に入った。そこには寮長の吉本俊吉、保母長の熊谷藤子の二人がいた。驚いたことにこの二人、かつて珠輝に見せたことのない上機嫌で珠輝を迎えた。

だが、珠輝は淡々として、今日のいきさつを二人に話し、握りしめていたメモ用紙を寮長に渡した。メモを見た寮長は、早速金倉に電話をかけた。しばらく話して電話を切った寮長は、