あれほど気重だった検定試験がようやく終わり、珠輝たちは自由の身となった。就職の件で志村教師と気まずい関係になったものの、これから金を稼げることの喜びに、珠輝の胸は膨らんでいた。

涙と怒りと憎しみだけが渦巻く施設からようやく解放された珠輝は、いったん家族の元へ帰ることにした。とはいうものの、間もなく就職する珠輝は、施設から持ち帰った荷物を解く必要はなかった。

次の日、珠輝がようやく社会人として羽ばたけるようになった報告のため、母の実家に出掛けた。

「おうおう。われはよう他人の飯に辛抱したねえ」

祖父の長太郎は涙を流して喜んでくれた。珠輝を心底心配してくれるのは長太郎一人だったのに、若い珠輝は祖父の存在のありがたみに気づいていなかった。

「珠輝ちゃん。やっとあんたも一人前になりよるとばい。これからはみんなに恩返ししていかないかんとばい。そのくらいのことは分かるやろう」

いつもながらの典子伯母の嫌みも、今の珠輝には気にならなかった。特に卒業祝いをしてもらったわけではなく、いつものように叔父や祖父がこっそり渡してくれたわずかの現金をもらって帰宅をした。珠輝は、その金を当座の生活費に充てなければならなかった。

次回更新は8月15日(金)、21時の予定です。

 

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