【前回の記事を読む】全盲の娘に向かって母は「目の前にあるとが分からんかね」「役に立ちゃあせん」その言葉に深く傷ついた。だが娘は…

第一章 向日葵のように太陽に向かって

珠輝のクラスから病院に就職できたのは二人だった。二人とも視力がかなり良かったからだ。

他の生徒の就職先は、実家や親戚が施術所を経営している生徒は別として、その他の生徒は、母校の卒業生が経営する施術所に就職させられた。だから、三学期の初めには、ほとんどの生徒の就職が内定していた。

なぜか、珠輝たち卒業学年の生徒、担任教師、それに保護者を交えての話し合いや詳しい説明会などは一度もなかった。

珠輝の就職先は筑豊の炭鉱町で、自宅専門の施術所だった。住み込みで固定給九千円。 休みは月に一日という条件だった。

早く働きたい一心の珠輝は、この条件をすんなり受け入れた。病院以外で安定した収入を得るには、固定給で住み込みで働ける施術所に就職することが一番と確信していたからだ。

ここで給料について触れておこう。

珠輝が卒業した当時、一人の患者を施術すると、患者から四百円をもらっていた。現在、珠輝は四千円の施術料をもらっている。月々の固定給は現在の価格にして九万円とみてよいだろう。

ところが、働く喜びを夢見ていた珠輝を怒りに駆り立てる話が飛び込んだ。生徒たちが就職先を教え合っている時だ。

同じ全盲の根岸友里ちゃんは博多にある施術所に住み込みで就職することになった。自宅での施術が大半だが、たまには外に出る施術もあり、送迎は必ずやってくれるとのこと、さらに給料は固定給で二万円というではないか。

これを聞いた珠輝はあぜんとした。友里ちゃんには少し視力があるから、クラスでも生徒同士で暴れる行動派だった。