珠輝が納得できなかったのは、友里ちゃんが送迎してもらえるのなら、なぜ珠輝はそこへ行けなかったかだ。さらに、かなりの給料の違いにも疑問だった珠輝は、早速志村教師に尋ねた。

すると、

「外を一人で歩けないのだから、お前を自宅専門の施術所に紹介したのだ。腕を磨いて立派な按摩師にならんといかんのに、金にばかり目がくらんでどうする。もっと謙虚になれんのか」

「先生、家は貧しいのです。もう少し給料の良いところはありませんか」

「丸山、お前は自分の目のことを考えたことがあるのか。わずかな視力があるのとないのとでは客の受け止め方が違うのだ。博多は商人の町でスマートだ。お前には向かん」

(何ということだ。わずかの明かりが見えないばっかりに、自分の給料は友里ちゃんの半分以下ではないか。同じ免許を持つのに)

志村教師の言葉は珠輝を完全に打ちのめした。スマートな町に自分は向かないのかと思うと、珠輝は言い知れぬ悲しみに襲われた。

働く喜びに膨らんでいた胸の風船は木っ端みじんに割れ、代わって怒りの嵐が、珠輝の胸でごうごうと吹き荒れた。

「生まれてこなければ良かった。目が見えないとはこんなにつらいものだろうか。見えないことはそんなにかっこ悪いことなのか。少しでも視力があれば、業者が直接本人をスカウトに来ることもあるというではないか」

志村教師の一言を浴びてからというもの、珠輝は打ちひしがれていた。試験勉強に追われているものの、就職が決まったクラスメートたちは、希望に満ちた華やいだ声でしゃべっていた。珠輝は彼等の中に入ることはなかった。まるで心が空になったようだった。