【前回の記事を読む】「少しでも視力があれば…」私はあの子よりも半分以下のお給料しかもらえない。あの子には少しだけ視力があるから

第一章 向日葵のように太陽に向かって

男性は金倉保という晴眼者の鍼灸師で、博多のT町で六年前から開業している三十六歳、奥さんは多喜子さんで、保さんより数歳年上、明かりが見える程度の全盲だとのこと。それに昭久君という三歳の一人息子の三人家族。

他に、三十前の全盲の女性が住み込みの職人として働いていることなどを話してくれた。

「うちは家内も職人さんも全盲ですから、あなたも働きやすいのではないでしょうか。それに、仕事は自宅がほとんどで、たまに外の仕事がありましたら、私が責任持って車で送迎いたしますから安心してください」

「お宅には自家用車があるのですか?」

珠輝が驚いて問いかけると、

「はい、私は今まで中古の車に乗っていましたが、今度最新式の車に買い換えました。そこへあなたに来ていただければ、こんなうれしいことはありません。一度考えてみてくださいませんでしょうか」

先ほどまで打ちひしがれていた珠輝にとって降って湧いたような話だった。完全に舞い上がりそうになった珠輝に何者かがささやいた。

「何を軽はずみに喜んでいる。この話が本当かどうか確認していないだろう。それに、なぜお前の名前を知っている。この男、口がうまいぞ」

その声にはっとした珠輝は、

「そうだ、この人たちは私の名前をなぜ知っているのだろう。それに肝心な給料には全く触れてない。舞い上がるな。うれしそうな顔をするな」

珠輝は自分に言い聞かせると、気付いた疑問を二人に投げかけた。すると夫人が、