【前回の記事を読む】父と母はいとこ同士だった。そして生まれた私には、両眼の眼球がなかった。そんな私のことを、親族や両親は

第一章 向日葵のように太陽に向かって

「珠輝ちゃん、あんたは目が見えんとやから人にいらんことは言いなさんな。たいがい人の手をとりようとばい。いつもありがとうございます、ごめんなさいを忘れたらいかんよ」

またあるときは、

「珠輝ちゃん。あんたは昔、お姫さんやったとばい。あんたがあんまり意地が悪かったけん、めくらで生まれたとばい」

さらに、典子が珠輝に向かって吐く両親に対する蔑(さげす)みの言葉は、珠輝には耐えがたいものだった。また、母の嘉子に何かを持ってくるようにと言われても、珠輝が目的の品物を見つけることができなければ、

「目の前にあるとが分からんかね。人並みない手の要る子。さあというときには役に立ちはしない」

嘉子は珠輝のそばにやってきては見えないことを詰(なじ)った。それだけではない。近所の主婦が、

「お宅は珠輝ちゃんが大変ですねえ」

とでも言おうものなら、

「そうたい。人並みないからさあというときには役に立ちゃあせん」

母嘉子の一言が、珠輝をどれほど傷つけたか……。こうなると、珠輝はおさな心に身の置き所がないことを思い知らされた。

だが、珠輝は負けなかった。家族や親類に話すことはしなかったが、働きはじめたなら金を貯め、いつの日か家を建てることを心に誓った。

そして一日も早く、大下家に家を帰し、両親は借家を出て、弟妹と一緒に新しい家に住んでもらいたい。それが実現すれば、私を丸山家の一員として、認めてくれるかもしれない。そんな淡い期待を珠輝は心に秘めていた。

だからこそ、少しでも収入が多いところを望むのは無理からぬことだ。しかし、彼女の心中など誰にも分かろうはずもない。