私が医学部学生のとき、「意識は脳幹で生まれる」と医学の教科書には書かれていました6。それでは、脳幹や大脳皮質が《社長室》なのでしょうか? 脳幹を損傷すると意識は失われることがわかっています。
1 脳を身体の一部と見なす場合には「心身論」という。
2 「心」には情緒を重要とする含みがあり、「意識」は「覚醒=目覚めている状態」という含みがある。
3 マジンガーZの頭にあるコックピットで操縦している「人」というのも、わかりやすいモデルである。本書は痛みの知覚に関わることだけなので、「会社モデル」にした。
4 デネットが「劇場」と呼んだのは、視覚がとらえた外の世界をスクリーンに映し出された映像として「心という別の存在」が眺めているという様子をイメージしたものである。
ディズニーのアニメ『インサイド・ヘッド』では、「よろこび」や「悲しみ」などさまざまな役割をはたす“脳内キャラクター”《部長》たちが、主人公の人生を脳内の劇場で眺めて暮らしている。主人公は「ヨロコビ」《部長》(側坐核、か?)である。《社長》は登場せず、いつも脳内キャラクター《部長》たちが侃々諤々議論して意志決定のボタンを押している。
5 ペンフィールドが頭頂葉に見つけた「体性感覚のホムンクルス」とは別者。神経科学はホムンクルスが大好きで、まったく別の概念に同じニックネームを付けていることがあるので混乱しないように。他のホムンクルスもいる!
6 医学生の私はどのようにして脳幹の神経細胞の活動が意識に変わるのだろうと不思議に思った。現在では脳幹の神経細胞がつくり出すセロトニンやノルアドレナリンなどの神経修飾物質が覚醒を生み出すことが知られている。つまり脳幹の神経活動は意識の「必要条件」といえる。
【参考文献】
(1)ダニエル・デネット、山口泰司 訳『解明される意識』第7刷、青土社、2017年
(2)クリストフ・コッホ、土屋尚嗣 小畑史哉 訳『意識をめぐる冒険』岩波書店、2014年
(3)スタニスラス・ドゥアンヌ、高橋洋 訳『意識と脳 思考はいかにコード化されるか』紀伊國屋書店、2015年
次回更新は8月4日(月)、8時の予定です。