さらに、極めて深刻な緊急事態では痛みを感じない方が生存上有利という場合もあります。兵士が戦場で銃弾に撃たれたとき、運動選手が重要な試合中にケガをしたとき、痛みをまったく感じなかったというエピソードが報告されています。緊急事態ではアドレナリン2やオピオイド3という、〝超強力なブレーキ〟を全身に放出されて痛みが消失することさえあるのです。
【ポイント】
・脊髄は体組織各部《事業所》を統括する《支社》、脊髄における情報の調整は《支社会議》のようなものです。
・脊髄《支社》は、それぞれの担当体組織《事業所》から伝えられた異常警報をまず「声を大にして」脳《本社》に伝えます。
・一方、警報が伝わった後、あるいは《会社》の存続に関わるような極めて深刻な事態では、《平常業務》に戻れるよう脳《本社》は脊髄や全身に抑制をかけます。
脳幹、視床下部、視床内側部〜恒常性維持と危機管理〜
脊髄で調整された侵害感覚情報は、脳へ向かう「二次求心性線維」を活動電位として「上行」していきます〔図2〕。二次求心性線維はふたつの経路に分かれて上行します〔図3〕。
ひとつの道は大脳に存在する情動を分析する神経細胞群に至る経路であり、「進化的に古い経路」です4。こちらは痛みの情動成分、つまり〝どのように〟痛むのかを分析する経路です。この経路を伝わった信号は、脳幹と間脳(大脳の一部)にある視床下部及び視床内側部に送られます。
もうひとつの道は間脳の「視床外側部」に向かう「進化的に新しい経路」です5。こちらは痛みの感覚成分、つまり〝どこが〟痛むのかを分析する経路です。この経路を伝わった信号は脳幹を通過して直接、視床外側部に伝わります。