【前回の記事を読む】不快な「炎症4徴候」。炎症それ自体が病気だと考えてしまいがちだが…損傷組織に対する修復反応であり体の生理反応

第1章 痛みのしくみ

研究史 〜むかし痛みは情動だった〜

炎症〜火事ではない〜

炎症という用語は、発赤と局所熱感からあたかも損傷部位が火事で燃えているように感じられるので名付けられたと思います。実に「ぴったりの命名」ですが、深刻な誤解の元になっています。

ここまでご説明したように、炎症自体は病気ではないのです。炎症は組織の〝火災〟ではなく〝復旧工事〟なのです。炎症性疼痛とは、いわば《復旧工事現場からの修理中注意報》です。これも重要なポイントです。

【ポイント】

・炎症とは、災害を受けた体組織《事業所》における修復反応《災害復旧工事》です。炎症性疼痛とは侵害刺激だけでなく炎症メディエーターという《修理部品》がポリモーダル受容器という《修理中注意報センサー》にとらえられ、そこから発せられた《修理中注意報》が末梢性感作《自動増幅機能》により強められて、脳《本社》に伝えられ知覚されたものです。

・炎症を火事にたとえるのは不適切です。たとえば「腫れ」は《復旧作業現場に山積された修理材料と工事作業員》、「発赤」は災害現場への《道路(血管)の拡張》、「局所熱感」は《道路の拡張による体表温の上昇》です。

末梢神経の神経線維〜通信ケーブル〜

体組織から背骨のなかにある脊髄までを末梢神経といいます。体がとらえた感覚刺激は電気信号に変換され、末梢神経を伝わって脊髄に伝えられます。末梢神経のなかには数千本もの感覚神経線維(一次求心性線維)が走っています。

神経線維はしばしば電線にたとえられます。ユニークなエッセイで知られるイラストレーターの南伸坊さんは「神経が電線なら電池はどこにあるの?」と鋭いギモンを投げかけています(5)が、神経線維を伝わるのは電流ではありません。