由比ガ浜(ゆいがはま) 兄十一歳・弟九歳
青天の霹靂とは、まさにこのこと。聞いた母の驚きは尋常のものではない。
「エ――エッ! 何と、何とおっしゃいます!」
声さえ別人のごとく裏返って、
「厭です! 厭です! 渡しません、断じて……」
絶望的な悲鳴を上げ、曽我太郎に取りすがって泣きわめいた。
その母の絶叫に驚いて、一萬と箱王が「母上! いかがなさいました」と座敷に駆け込んでくる。
「オオ――一萬、箱王」
母は無我夢中で二人を左右にかき抱くと、黒髪を振り乱して泣き悲しむのだった。「梶原殿がそこにお見えだ。さあ――」との周囲の声も聞きもあえず、
「ああ、ああ――。これは夢だ、悪い夢に違いない……。祐親殿を死に追いやっただけでは飽き足らず、何も知らぬ子供の命まで! どうして……どうしてそんな――」
二人を抱きしめ、ただ涙を落とす。斬首と分かっていて、どうして愛しい我が子を渡せよう!