身をよじって悲しむ妻を見る、曽我太郎も辛かった。けれども、曽我の家長たる彼。いかに哀れと思っても、将軍の命に背くわけにはいかない。必死に声を励まして、
「満江よ、未練であるぞ。昔は斬首を怖れて逃げることもできたが、今や鎌倉殿の御威光は日本中、及ばぬ隈(くま)もなく、とても逃げおおせるものではない……。それよりは――仰せに従って兄弟を差し出し、その上で命乞いをして、お情けにすがる他あるまい。わしも同行して、何とか減刑を願おう。
ええ、分からぬか! 上使の前で恥であるぞ。そなたも武士の妻、武士の母であろうが!」
「……はい。は、はい――」
曽我太郎に繰り返し掻き口説かれ、がっくりと肩を落としつつ、母は泣く泣く子供らの死に装束を用意するのだった。
まさか自分の手で、我が子に死に装束を着せる日が来るとは……。着替えさせ、その姿を改めて見て、「まだこんなに小さいのに」と、また涙を新たにする。一萬に着せた装束は、垣に朝顔の花の柄。
昼を待たず、朝の内にしおれる命短き花よ。哀れや、この子もまた、はかなき命で終わるか――。
「ああ、叶うことなら、この母が身代わりになって死にたい!」
せぐり上げる悲しみに泣く母を、逆に子の一萬が慰めるのだった。
「母上、お嘆き下さるな。そのようなご様子をお見上げすると、わたくしも未練が残ります。もし、わたくしが斬られるようなことがあれば、前世のこととお考えになり、お諦め下され」
兄がしっかりした口調で言えば、弟も負けじと言う。
「兄様(あにさま)のおっしゃる通りです。わたくしも、恐ろしくなどありませぬ」
いよいよ別れの時。