始まりのこと
芦ノ湖を眼下に望む箱根神社。杉の巨木に囲まれ、そのたたずまいも荘厳なこの神社に、一振りの古い短刀が納められている。その名は、「赤木づくりの短刀」。
小箱に収められ、非常に小さい――。短刀と言うよりは、ナイフと言った方がふさわしいだろうか。全長、二十六センチしかない。柄の部分は名の通り赤木で作られ、丁寧な彫刻、梅の花をかたどった飾り。刃の部分は短く、ひどくさび付いており、この短刀が経た長い年月を感じさせる。
――この、見るからに素朴で小さな短刀が、「日本三大仇討ち」に数えられる一つの事件で、とどめの一撃を刺した刀だということを、ほとんどの人は知らない……。
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