「温度受容器」のなかで、侵害温度域(43℃以上と15℃以下)の温度をとらえるものを特に「温度侵害受容器」といいます。温度の受容体は不思議なことにトウガラシなど植物の成分に対する受容体が〝兼務〟しています2

ちなみに、2021年度のノーベル医学生理学賞は、化学的侵害受容体・温度受容体を発見したデヴィッド・ジュリアスと機械的侵害受容体を発見したアーデム・パタプティアンに授与されました。このように、侵害受容体の構造が明らかになったのは、ごく最近のことなのです。

「ポリモーダル受容器(多様式受容器)」は3種類の感覚刺激をすべてとらえます。ひとつのポリモーダル受容器には何種類もの化学受容体が装備されています〔図1〕。

ポリモーダル受容器は非侵害域から侵害域の広域の刺激強度にも反応する「広域受容器」でもあります。体組織が損傷されたときに起こる炎症において体組織が産生する「炎症メディエーター」という化学物質をとらえ、「炎症の痛み」において重要な役割を果たしています。

ところで臨床医学ではしばしば、肥満、やせ、老化、運動不足、運動過剰、左右アンバランス、不良姿勢など、「侵害刺激が不在」と思われる身体状態が「痛みの原因となる」と説明されています。けれども実際には、これらの身体状態では体組織は機械的、化学的、温度的に損傷されていません。

それにもかかわらず、しばしば痛みの原因と説明され、それを改善する目的の治療が行われています。まだ確認されていない「未知の侵害受容器」が存在するのでしょうか? この「問題」は4章と7章で論じます。

侵害受容器の存在密度には体組織により差があります。皮膚の一種である爪と毛は痛みを感じませんが、これはそれらが「死んだ組織」だからです。運動器では、軟骨は侵害受容器が存在しないので針で刺しても痛みは感じません。意外な場所は脳です。脳の神経細胞組織それ自体には侵害受容器は存在しないので、痛みは知覚しません3