【前回の記事を読む】友達をつねって「痛っ」と言われると「生きてる証拠!」なんてやり返した小学生時代。痛みを知覚することは〝体が正常な証〟

第1章 痛みのしくみ

研究史 〜むかし痛みは情動だった〜

侵害感覚受容器〜異常探知センサー〜

侵害受容器の機能と種類を決定しているのは、その表面に存在している「受容体」1です。

受容体とは侵害受容器という《警報センサー本体》の表面にあって刺激を電気信号に変換する分子《変換部品(トランスデューサー)》です。最近20年の疼痛科学の研究によりさまざまな受容体が発見されました。

刺激と受容体の関係はしばしば「カギとカギ穴」にたとえられます。それぞれの刺激が対応する受容体にとらえられると、受容器に電気信号が発生します。感覚受容器は4種類あります。機械的受容器、化学的受容器、温度受容器とポリモーダル受容器〔図1〕です。

「機械的受容器」は体組織の変形をとらえます。機械的受容器には触、圧、振動などをとらえる「機械的非侵害受容器」と「組織損傷の可能性がある変形」をとらえる「機械的侵害受容器」があります。

機械的受容器はゆっくりとした変化には反応せず、また急な変化に対して反応しても、すぐに反応しなくなるという特性をもちます。専門的に「順応」と呼ぶこの現象は、運動器の痛みを理解するために重要なポイントです。

「化学的受容器」のほとんどは血中の酸素、糖などをとらえるもので、そのほとんどは意識されずに処理されます。このうち「化学的侵害受容器」は侵害刺激物質である酸、アルカリ、刺激性化学物質、そして炎症時に体組織細胞が生み出す「炎症物質」をとらえます。

化学的侵害受容器には酸の受容体が見つかっています。低酸素、二酸化炭素、有害ガスなど、気体の有害化学物質に対する受容器は体組織(皮膚と運動器)には見つかっていません。