1、にゃん太郎物語

二階の窓から外の景色を眺めるのも大好きだ。前の道路を走る車や、歩いている人の姿、さらには隣の畑のビワの木や電線に止まっている小鳥を観察したり、高い所から周りを見渡すのは気分が良い。

特に冬は、陽当たりの良い部屋の布団の上で日向ぼっこするのが、僕の一番のお気に入りだ。ある日、干したばかりの智子ママの布団が畳の上に広げてあった。ふわふわで、とても気持ちがよかったので、そこにオシッコをした。黄色い染みが広がった。

「こらあ、にゃん太郎。ダメでしょう。お布団にしちゃ!」

智子ママはすぐに僕を見つけて捕まえると、その匂いを嗅がせるように、布団に僕の鼻を押し付けて注意した。とても臭かった。そして猫用トイレに連れて行って、

「にゃん太郎は、ここでやるのよ」

と教えてくれたが、子猫の僕にはよくわからない。

だって、我慢できずに好きなところでやってしまうだけだから。何度か同じ失敗を繰り返し、そのたびに智子ママに厳しくお仕置きをされ、ようやく自分のトイレを使って、用が済んだら臭いを消すために砂をかけることも覚えた。

それでも智子ママは、僕が世界地図を描いた布団を何度かコインランドリーに持って行ったようだ。晴れた日には、ベランダに干しているのもよく見かけた。

智子ママも芳江さんも、いつも何かしら忙しそうで、あまり僕と遊んでくれない。ときどき思い出したように、長い紐を持ち出してヒラヒラさせて揶揄(からか)って、僕の狩りの本能をくすぐるけど、すぐやめてしまう。「もっと遊んでよ」と言っても通じない。人間は何て勝手なんだろうと、少しムシャクシャした。

 

不完全燃焼で遊び足りない僕は、柱をガリガリ引っ掻いてみた。これは面白い。壁もガリガリやったら傷がつき、襖もやったら破れてしまった。でも爪を立てると、気持ちがよかった。僕は爪研ぎの快感を覚えたのだが、少し調子に乗り過ぎた。

「こらあ、にゃん太郎!」

またしても智子ママに見つかり、叱られてしまった。智子ママはすぐに〝爪とぎシート〟を買ってきてくれた。

初めはマタタビの匂いがしたので、喜んで飛びついた。匂いが薄れると飽きてしまい、また壁や襖を引っ掻いた。(断然こっちの広いほうが面白いや)智子ママは、ガムテープやシートで、それらの修正に必死になり、〝いたちごっこ〟のように、僕と智子ママは張り合った。