鷹見は轟音によって機能不全となった耳を押さえ、爆発の後舞い上がった煙を必死に払いのける。これは攻撃か?
「構え!筒を構えよ!」
自分にこれほどの声量があるのかと驚くほど大声で叫んだ。さすがに土井が選りすぐった精鋭である。臆することなく中筒を構え、各々が冷静に状況を分析しようとしている。
遠巻きにしていたおかげで、当方の被害は軽微のようだ。煙幕が晴れると、先程までじっと睨み続けていた離れの家屋が消えていた。爆発で吹き飛んだ、ということだろう。
(自爆、か?)
あり得る。城を出立する際、坂本という鉄砲方が言っていた。
「鷹見殿。大塩はもののふです。こんな時代に珍しいほどの。ほんでもって、すこぶる迷惑なもののふですわ」
確かに迷惑だ。百数十名も動員して収穫は焼け焦げた炭だけ、なのか?
鷹見が当惑している頃、カイはそのはるか頭上、美吉屋を見下ろす森の頂に立っていた。大爆発は期せずして陽動になっている。
現場に注視するあまり、誰一人として甕を背負った一介の小僧の存在には気づいていない。惨状を目のあたりにして、カイは全てが現実なのだと悟った。
もう後戻りはできない。この多くの犠牲を活かさなければならない。覚悟を決めた。
「大塩先生。格さん。田沼意義殿。しかと見届けました」
背負子をその場に置き、残り火が燻る離れに向けてひれ伏した。
数か月打診し続けていた家斉とのお目見えがかなった。江戸城西の丸では、家斉が忠邦の上申書に目を通している。いつもの御前報告ではない。
引退した今も実権を握る家斉との一対一の会合……のはずだった。ところが家斉が鎮座する御簾の後方には、見慣れぬ男の姿があった。