言葉が未熟なカーシャは、自分の感情や相手から受ける印象をときどきこうして色彩で表現する。一つの手段かもしれないが、ニコには実際にカーシャにはその色が見えているのではないかと思えてならない。豊かではないが、時にそれはこちらが気づいていないものさえも暴き出す。
「お父ちゃんは、黒いか?」
ニコが問い返すと、カーシャは大きく頭をふって否定した。
「黒くないけど、街へいくと黒い」
「街から戻ったお父ちゃんは黒くなってる、ってことか」
補足してやると、うんと答える代わりにカーシャはニコの肩に頭を寄せた。
「おい、もう冷めてるぞ。早く服を着なさい」
ニコが注意するとカーシャは素直に応じ、子どものころのままに、頬におやすみのキスをして部屋を出ていった。
―あの子には、わかるのか。
ソファーにゆったりと座り直したニコは、暗い目をして考えこんだ。
誰も知らないことだ。カーシャだけでなく村の者にも、イェンナへいくのは、カーシャの出生の手掛かりを探すためだと信じこませてきた。
知っちゃいないんだ、俺がどんなやつで、この村に何をしてしまったかを。そして、これから俺がどうなるのかも……。そんなこと、実際この俺にだってわかりゃしないんだ。
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次回更新は11月7日(木)、21時の予定です。