「おいおい、そっちの椅子が空いているのに、ここがいいのか」

うん、とうなずいてカーシャはそこに収まった。ニコが湿った髪をバスタオルの端でしっかり拭いてやると、シャンプーの香りが漂った。

これを教えるのも大変だった。放っておけばシャンプーのポンプを四回押したがるカーシャに、一日に押していいのは一回だけだと刷りこんだ。今日と明日とあさってとその次、この四日間を一巡りにしてようやく覚えこませた。今日がカーシャにとって何日目に当たるのかはニコにはわからないが、一度頭に入れたルールならカーシャは誰よりも正確に守るのだ。

ふつうの子の何倍かは苦労したが、カーシャの頭の中の四という数字の法則を見つけたあとは、扱い方がずいぶん楽になった。心が純粋な分、かわいい子だ。ニコは、さあこれでよし、とばかりに頭を軽くはたいた。

「ねえ、お父ちゃん」

なんだと顔を向けると、透きとおるような肌を薄桃色に染めたカーシャの顔が間近に迫った。

「もう、街にはいかなくていいよ」

「ああ、そうだな。お前のお母ちゃん捜しはもう止めたよ。見つけてお前を返す気なんか俺には全然ないんだ。安心しろ」

目を細めたニコに、カーシャはそうじゃないともどかしそうにする。

「街はだめだ。お父ちゃん、街へいくと黒くなる」

―黒くなる?

心の奥で、何かがかちりと鳴ったような気がした。