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その朝、カーシャは寝坊をした。
いつもならニコにたたき起こされるのだが、今朝は声すらかけられなかった。閉じたままのカーテンの縁からしろい日差しが漏れている。
ベッドを出て隣の部屋を見ると、ニコはとうに起きたらしく、ベッドはきれいに整っていた。
それならと台所へいき、次に干した洗濯物をかき分けてシャワールームを覗いた。
「お父ちゃん!」
カーシャは大声で呼びかけたが返事はなく、物音すらしなかった。
はっと思いついて今度はトイレのドアを思い切り開けたが、そこにもニコはいなかった。カーシャは首をかしげながら、掃除用具の入ったロッカーや貯蔵庫の中、さらには机の下もソファーの後ろも戸棚の陰も、全部探した。冷蔵庫の扉を開け、入るはずもない洗濯機の中も覗き、「お父ちゃん、お父ちゃん!」と声を荒らげながら探し回った。
物音に、カーシャはふっと立ち止まる。しばらく耳をすますが、何も聞こえない。
彼はもう一度自分の部屋に戻り、カーテンを引き開けた。明るい陽光が部屋に差しこみ、閉じたクローゼットの扉からちょろりと飛び出た服の端が目に入った。カーシャはやっと見つけたとばかりに笑い声をたてた。瞳を嬉々と輝かせ、自信に満ちて扉を開く。
―いない。
笑いは瞬時に彼の顔から消え、その下から苛立ちが煮えるように沸きあがった。
「お父ちゃん、もう、やめて!」