「ニコが、カーシャが寝てる間に、こんな紙切れを置いていなくなった」
「お前、また捨てられたのか」
ふざけた調子でカーシャをふりかえるエゴルを、サッコは睨みつけた。
「イェンナで出会った女と、三年も付き合ってきたらしい」
サッコが言うと会場は賑やかにどよめいた。地味な男だと思っていたニコにもそんな浮いた話があったのかと知り、みんなの表情は明るい。
「詳しいことはあとでこれを回して読んでもらえばいいが、俺たちに関わる肝心なところだけ読みあげるからちょっと聞いてくれ」
サッコはそう前置いて手紙の途中に目を落とした。
「鐘塔の鐘は、所在が不明になったのではなく、実は俺が売ってしまったのです。売って得た金は、もうすべてなくなりました」
息を揃えるような沈黙のあと、さっきとは打って変わった低いどよめきが流れた。サッコは淡々と手紙の続きを読んだ。……修復工事が終わるころ、鐘をおろしにきた業者から鐘を売らないかと持ちかけられました。外国の金持ちがいい値段で買い取ってくれるらしい。村も寂れてしまったことだし、おろしたついでにどうかとすすめられました。
【前回の記事を読む】「もう、街にはいかないで」―この子には、わかるのか。…出会わなければよかった。彼女を知らなければ、オレは今でも…
次回更新は11月8日(金)、21時の予定です。