3
……修復工事が終わるころ、鐘をおろしにきた業者から鐘を売らないかと持ちかけられました。外国の金持ちがいい値段で買い取ってくれるらしい。村も寂れてしまったことだし、おろしたついでにどうかとすすめられました。
実は屋根が壊れる少し前に貯金を使い果たしていた俺は、鐘塔の被災に対して集まった寄付金の一部に手をつけました。はじめはちょっと借りるつもりでした。少し借りては給料日に戻すことを繰り返していましたが、だんだん借り出す額が大きくなって返済が追いつかなくなりました。
頭のどこかでは悪いとわかっていても、金が必要でした。修復が終われば使いこみもばれる。焦った俺は、鐘が消えれば一石二鳥じゃないかと言われ誘いに乗ってしまったのです。いつかばれる、そう怯えながら、カーシャや村のみんなを欺(あざむ)き続けました。
いくらで売ったかはどうか聞かないでください。失ったものを思えば愚かしい金額です。村の資産であり、自分の魂ともいえる鐘を手放して掴もうとしたものは、人から見れば危なっかしく虚しい夢でした。お詫びの言葉も見つかりません。せめて、これ以上の迷惑が及ばないように村を出ることを決めました。
ただ一つ、カーシャが心残りです。俺以上に、鐘はあの子にとって必要なものだったのに、俺はそれを奪ったうえに、あの子を一人で残していこうとしています。最後まで悩みましたが、方法が見つかりませんでした。独り者の俺に寄り添って、やさしさと温もりをくれたあの子に対して俺は最低です。