村のみんな、どうかカーシャを頼みます。一人では生きていけないが、心のきれいな子です。
料理をする以外のことは、なんとか自分でできます。どうか怒らず、腹を立てず守ってやってください。彼を愛してやってください。俺は生きている限り、あの子の幸せを祈り続けます。
カーシャ、お父ちゃんはお前と離れることが辛くてたまらない……。
書きかけた続きの文字はペンで塗りつぶして消され、手紙はそこで終わっていた。
サッコが読み終えると、室内はしんと静まり返った。疲労感に似たやるせなさがみんなの心を重くした。
「つまり、そういう女と付き合ってしまった、ということか」誰かがぽつりとこぼす。
「だから真面目一方できたやつは怖いんだよ。あの年になってから火がつくなんてさ、こりゃ始末が悪い」
片手で頬杖をつきため息を漏らすエゴルに何人もが黙ってうなずいた。
「これ以上の迷惑って。ニコの親父さん、どんなやばいことになっているんだろう」
心配を口にするユーリ。サッコが後ろでぽつんと座っているカーシャに目を泳がせ、注意を促すと、ああ、そうかと気づいてユーリは口をつぐんだ。
「とりあえず、カーシャのことをどうするかだな」
ニコの個人的な問題はともかく、村人にかかるのはつまりその一点だ。頼む、と言われても順応性がない彼を混乱させないでおくのはむずかしい。結局、馴れたあの家でこのまま生活を続けさせるのがいいだろうとはすぐに決まった。