第一章 新しい仕事

 

バイカル・ビジネス・カンパニー(BBC)の朝はいつも緊張している。十人の社員たちは八時四十五分までには会社に着き、タイムカードを押す。横浜事務所主任の赤沢崇(たかし)は席に着くと、パソコンの電源ボタンを押した。そして、美しいが厳しい顔の社長を思い浮かべ、今日の報告リストを一瞥した。

パソコン画面が立ち上がるのを確認しながら、ビデオ通話のアイコンをクリックする。当番の社員は机を拭き、コーヒーの準備をする。すでに湯沸かしポットから白い湯気が出ている。

ニューヨーク事務所の責任者のアンゼリカ社長はパソコンの前に待機している。昼間の仕事の疲れが少し残っているが、背筋を伸ばして顔を引き締める。

日本時間の午前九時は、ニューヨーク時間では前日の午後八時である。時差は十三時間だ。日本時間午前九時から三十分間、朝の企画会議の時間である。社長は時間に厳しく、業務報告内容にも厳しい。

各社員は卓上のパソコンにビデオ通話を連動させる。赤沢主任が「皆さん良いですか? ビデオ通話を繋ぎますよ」と声をかける。午前九時になると、社長と社員が「おはようございます」と大きな声で挨拶をする。

最初に、事務所の責任者である赤沢主任が報告を始める。昨日の売上高、売上品目、営業内容などを的確に述べる。ロシアからの引き合い状況も述べる。事務所の全般的な状況や自治体からの要請や横浜市の行事なども説明する。社長は特にコメントしない。他の社員は各担当の経理業務、営業業務、仕入れ業務などを報告する。

時には社長が特定社員に厳しい質問をすることもある。最後に社長が全般のコメントをする。そして必ず「お給料以上に働いてください」と言って会議は終了する。この朝の企画会議が終了すると全員ホッとする。緊張が抜けてトイレに駆け込む人もいる。一日のエネルギーの半分を費やしてしまう。

この朝の企画会議は社長にとって一番重要な時間なのである。ニューヨークと横浜の二つの事務所運営をしており、責任が大きい。勿論、日々の業務運営はEメールを活用して、報告、連絡、相談を行う。しかし、ビデオ通話で社長と社員が顔を合わせて、指示を出し、報告をするのが一番重要なのだ。