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「またあいつがきたんだって!」
「ああ、だけど今度はカーシャのことだったよ。お前があんなことを言うから心配だったんだけど、大丈夫だ。全然気づいてないよ」
目をぎらぎらさせたキーラに、エゴルは落ち着けとタバコをすすめたが、キーラは余裕なくそれを断った。
「最悪。またカーシャに会いにくるらしいって聞いたけど、いつなの、今度は」
「昼にこいって言っただけだ。明日かもしれないし、一週間先かもしれないし、気を持たせただけでこないかもしれない」
キーラはエゴルを睨みつけた。
「何よそれ。もうちょっと頼りになる人だと思ったのに。そんなんじゃいつあいつと鉢合わせするとも限らないじゃない。もう、どうしてくれるのよ!」
「俺にキレるなよ。あいつに何月何日の何時何分にこいって言うのか? そんなの守るような相手じゃないだろ」
エゴルは吸っていたタバコを靴の底に押しつけて消した。
「いいこと聞かせてやるよ。他には言ってないことなんだが、どうやらカーシャのことを知りたがってるのはもっと親玉らしくて、ひょっとしたらそのご縁ってことでニコは勘弁してもらえるかもしれないってさ」
「あいつが言ったの」
「はっきりじゃないけど。あいつらだって人の子だもの、話せば通じるってところもあるんじゃないのか」
それを聞いて、さっきまでカーディガンを引き寄せて身を強(こわ)ばらせていたキーラが鼻で笑った。
「おめでたい人ね。まあ、こんな田舎にいちゃ世間知らずも仕方がないけど。あいつらはね、猫の顔して近づいて、いざとなればいつでも豹に変わるのよ。それがやつらのビジネス。情なんか持ちこむもんですか」
エゴルが灯していたマッチの明かりほどの希望の火を、彼女はふっと一息で吹き消した。