制御できない気持ちを彼は自分のベッドにぶつけた。布団を引き剝がし、枕を床に叩きつけた。そして、その枕の下に差しこまれていた白い封筒(ふうとう)を見つけた。

中を開けばニコの筆跡だ。はじめに「カーシャ」と青いインクで書いてあるのはわかるが、読み書きのできない彼にはそこまでだ。カーシャは手紙を持って家を出ると、向かいの食料品店に飛びこんだ。

店の入口に立ってカーシャは叫ぶ。

「お父ちゃんがいない!」

それを聞いて、すぐにレジの向こうから店の主人がやってきた。

「なんだね、カーシャ。今日は日曜日だから、ニコはきてないよ。家にいるだろ」カーシャは眉を寄せて、店主の鼻先に手紙を突き出した。

「これを読めっていうのかい」

店主は鼻の上の眼鏡をちょいとつまんで額の上に持ちあげた。四つ折りにされた紙はノートを切り取ったものだ。青いインクでびっしりと二枚。店主は読みはじめるなり顔をあげて外に目を走らせた。

うまい具合に通りを歩く団長のサッコが見えた。日曜日の青年団集会が終わって帰るところだろう。店主は店の戸を開け、「おい、おい」と大慌てで呼び止めた。

「ニコがいなくなった」

そう言って手紙を渡すと、サッコは「はあ?」と聞き返して困惑したような笑いを浮かべた。

だが、彼もまた数行読むなり、通りを歩く青年団の連中に向かって叫んだ。

「おい、みんな! もう一度集会所に戻ってくれ。ニコがいなくなった」

青年団のおよそ半分を集会所に連れ戻し、何事かとざわざわ騒ぐ彼らの前に、サッコは手紙を掲げて立った。