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「ねえ、ジョジョ。あんた、こんな鐘の音知ってる?」

「鐘? 俺にわかるわけねえだろう。隣で鳴ってたって、そんなもの聞いちゃいねえよ」

粋がった喋り方。自分ならこんな男にものをたずねるようなことはしないが、彼女は手玉に取ったように、ふふと笑った。

「カーシャは?」

「もう店に帰ったよ。俺たちも早くいこうぜ」

「なら、いいわ。あたし、ちょっとこのおじさんを案内してくる。二つのうちのどっちかなのよ。自分でも気になっちゃったわ」

ぶつぶつと文句を言う男を残し、彼女はニコの腕を引っ張って中庭から連れ出した。

「どちらもちょっとちがったわね」

「いや、あとから連れていってもらった聖堂の鐘だと思う。きっと、鳴らされる時間がちがうか、特別なときに鳴らすものなのだろう」

二つの聖堂を見た二人は、夕暮れ間近いカフェのテラスで小さな円(まる)いテーブルを囲んだ。

「とんだ迷惑をかけたね。だけど、おかげで当たりがついたから、今度また訪ねてみますよ。ありがとう」

「迷惑だなんてちっとも。推理(すいり)ゲームみたいで楽しかったわ」

その鐘の音を聞いてカーシャは育ったにちがいない。そんな憶測のもとにこの街へきたのだと道すがら喋ると、彼女はいっそう熱心に協力してくれた。

コーヒーをすすりながら、二人の会話がふっと途切れた。

今日はこれで終わる……そう思えばニコの心に名残惜しさがこみあげた。親子ほどに年の離れた彼女と、今日は一日この街を歩き回った。なんという経験だろう。