面白い提案だと一とおり聞いてはくれるが、自分の土地を提供するかということになれば話は別だ。堅実な農家が、そのもととなる土地を抵当に賭(か)けになど打って出るものか。
サッコが同世代を相手に熱心に話せば話すほど、親たちの世代からはいい加減にしてくれと反感を買うようになり、彼はあきらめざるを得なかった。
ところが、彼の理想は再び息を吹き返しつつある。
―土地がずたずたになってしまった今こそ、チャンスなんだ。
災難に見舞われたことは不運かもしれないが、だからこそ思い切ったことに踏み切れる。
人口がずいぶん減ってしまったこの村で、去年サッコは青年団の団長に就任した。二十歳から四十五歳までの男で構成された村の副次的な組織だが、村長が病に倒れ、村会が用をなさなくなってしまった今、村という形体を実質的に支えている。
彼は三十になったばかりだが、年長の者をさしおいて進んでその役を引き受け、政府の策を受け身に待つのではなく自分たちで復興(ふっこう)する道を切り開こうと訴えている。
農業を企業化することでこの村は生き残り、きっと新しい展開をする。そう訴える若いサッコの情熱は今度ばかりは支持され、土地なら持っていけとうなずく者も現れた。
どうせ荒れてしまった畑だ、誰かが利用してくれるのなら企業化だろうがなんだろうがやってくれ、ということだろう。これで土地の問題は見通しがついた。
しかしそこまでだ。組織化した運営をするためには各農家が出資してある程度の設備を整えなければならないが、いざとなれば村民の懐(ふところ)は固い。
ユーリのような若い農業青年たちが熱意を支えてくれたとしても、親を動かすにはいたらなかった。実際のところ、紛争のあおりを食って疲弊(ひへい)してしまった農家に、これ以上の事前投資をする余裕もなかったのだ。
―金がない。
明日を見据えたサッコの前に、今度はこの動かしがたい現実が大きく立ちはだかっていた。
【前回の記事を読む】川に落ちた彼を蘇生させる間、ユーリは何かを押し殺すように、何度も拳を握りかえしていた。無表情につとめる彼の視線は…
次回更新は10月30日(水)、21時の予定です。