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赤茶色の髪をした赤ら顔の青年が、固くなった地面に黙々とスコップを突き立てる。名はサッコ。子どものころランタン坊やとからかわれた顔は日に焼けてさらに赤くなった。
足をかけ体重を預けると、ずぶりとした感触が手や足に伝わってくる。スコップで掘り起こした土の中から、切断された白い根っ子を拾い集める。何年もの間荒らされた土地には雑草ばかりが生い茂り、その堅い根が網の目のように地中に蔓延(はびこ)った。まずはこれを掘りあげ、取り除かなければ機械だって使えやしない。気が遠くなるような手作業が続く。
黒く肥沃(ひよく)だった畑の土も傷んでしまった。軍が運んだ土嚢を取り除くように訴えたら、やってきた者が袋を切り裂いて大量の砂を残していったからだ。せっかくの畑にこんな砂を撒(ま)かれてはかなわないと慌(あわ)ててやめさせたら、それっきり回収にもこない。
なぜ自分たちだけがこんなに酷(ひど)い目に遭わなきゃいけないんだと、スコップを握るサッコの手におのずと力がこもる。
だが、そんなサッコにも心を照らす一つの考えがあった。
まだ村に活気があったころ、彼は首都の大学の通信講座でえらい先生の講義を聴いたことがあった。「これからの農業のかたち」と題されたもので、サッコはそこで組織化し、企業化された新しい農業経営の存在を知った。
零細な個人農家が結集し、一本に統合し管理されることで多様で計画的な作付けが可能になる。商品価値の高い作物を生産し、流通ルートも自分たちで確保すれば、地道に進むしかなかった農業にも新しい可能性がどんどん生まれてくる。
何より全員が会社に属し、就労時間も一定になる。町に働きに出る労働者のように給料を受け取り、ローテーションを組めば休暇も取れる。
収穫時に受け取るような金を一時に得ることはないが、毎月決まった金が入れば生活は安定し、設備投資にかかる費用や不作のダメージを一身に食らうこともない。これは実際、農業を営む者にとっては大きなメリットだ。
とはいえ、そのころはまだ二十歳をすぎたばかりのサッコの意見に賛同してくれる者などいなかった。