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去年、水切りをして遊んでいたカーシャは勢い余って川に落ちた。水深はせいぜい腰のあたりだったが、泳げない彼は突然水に落ちたことでパニックの発作を起こした。一緒に遊んでいた子どもたちも、はじめはふざけて溺れたふりをしているのかと面白がっていたが、そのうち姿が川底に消えたので大急ぎで大人を呼びに走り、危ういところでカーシャは助けられたのだった。
たまたま近くを通りかかったアニタが騒ぎに気づいて見にいくと、ちょうど彼が水から引きあげられたところだった。草の上に仰向けたカーシャを蘇生させるのを、アニタと同じくあとからきた者が何人も取り囲んで見守った。
その中にユーリの姿もあった。
濡れたカーシャの顔は蒼白(そうはく)で首筋には髪がまとわりつき、どこか艶(なま)めかしくもあった。もともとが女の子のような顔立ちで、ましてや言葉の遅れた子だと思えば男として眺めたことはなかったが、突きあがった喉(のど)、角張った肩、薄く平らかな胸……アニタがそこに見たものはまぎれもなく瑞々(みずみず)しい男の体だった。
その血の気のない唇に誰かが何度も息を吹きこむ。やっている方は命を呼び戻そうと必死だが、眺めているアニタには密(ひそ)やかで甘美な感覚が湧き起こっていた。目の前の光景に陶酔しその場に立ちすくんだアニタは、このとき一人おいた向こうで、ユーリが無意識に何度も拳を(こぶし)握りかえすのを目にとめた。