「おいおい、やめろ! 俺まで濡れるじゃないか」

ユーリが叫んでもお構いなしだ。カーシャは面白がっていっそう激しく頭をふり続ける。ふるたびに濡れた髪がゆっくりと左右の頬を叩きつける、その感触を楽しんでいるかのように顎を突きあげ、カーシャは恍惚(こうこつ)として微笑んでいる。

ユーリは用済みになって転がったバケツを靴の先でこんと蹴る。

幼いころはユーリもかわいらしく、姉と一緒に撮られた写真はまるで姉妹のようにしか見えなかった。親もそんなユーリに女の子とも見てとれるような恰好(かっこう)をさせていたものだ。

ところが成長するにつれ、いつの間にか体は骨張って、大きくなった。ちくちくと痛いひげが生えてきて、皮膚は厚く、硬くなった。男の中でもとりわけ毛深くなったユーリの変化は劇的だった。

そういう体の変化を雄(おす)の証と(あかし)して誇らしく感じる人もいるだろうが、ユーリはそう思ったことなど一度もない。むしろ、なぜ男だけがこの変化を我慢しなければいけないのかと思う。

カーシャの皮膚は、今でも少女のようにやわらかい。畑仕事で日に焼けた自分とちがって、色白く、頬の赤みはほんのりと透け、唇(くちびる)は紅をさしたようで、村の田舎娘なんかよりはずっときれいだ。錫のように鈍く輝く髪色は甘くなりすぎる顔の輪郭(りんかく)を引き締めて、いっそう彼の顔を小さく見せる。

そして、菫色の瞳。この瞳に、もしも人と交感する深い眼差しが加わっていたとしたら……。ユーリは蝶(ちょう)のようにひらひらと動く彼の視線を追いかける。