ユーリの心に、ときおり深い水の底から浮かびあがろうとするものがある。それが水面に現れそうになると、見極めてみたいという願望と知りたくはないという不安が彼のうちでせめぎ合う。

そのたびに彼は心に波をたて、くるんじゃないと追い払うが、また深く沈んでいくその陰影をどこか恨(うら)めしく見送っているのだ。

ユーリは自分のセーターを脱いでカーシャの頭にかぶせ、じっとしていろ、と押さえつけて髪を拭いてやった。そうしながら土手の上に目をやると、通りがかった村長夫人と顔が合った。軽く会釈(えしゃく)すると、何をしているのかと問いかけるような仕草が返ってきた。

「泥をぶっかけられたんです、いつものあいつらに」

大声で叫ぶと、土手の上で気の毒そうに笑いながらまた何か言っているようだ。聞き返そうとしたが、遅れて歩いていた連れの老女が追いついたのを見てその気も失せた。

―いやなのがきた。

土手の上では、村長夫人が連れの老女に今聞いたことを話していた。

 「子どもが家の中にこもってるのもどうかと思うけど、あの二人にも手を焼くわね」

親たちが村の外に働きに出るようになって子どもたちにも目が届かなくなった。多くは部屋でゲームにふけっているのか、放課後は外で姿を見かけることも稀(まれ)になったが、その分この腕白たちのいたずらが目に余る。

「今どきこんな遊びをする子の方が見込みがあるわよ。カーシャにはいい連れだよ」老女は子どものことにはさっぱりとしたものだ。

「まあ、そうなんだけどね。あの子もねえ、あんなに大きくなってしまうと、もう私ら女の手には負えないもの。ユーリがよく面倒を見てやってくれるから助かるわね」

「さあ、それはどうだか」