その一帯は、およそ十年前から自治を求めて政府と穏便(おんびん)な交渉を繰り返していた地域だった。もともと移民が多く定住していたため、宗教も異なり、習慣もなじまず、国土の端に位置していることから公共事業も遅れがちで、政府としても関心の薄い土地だった。

ところがあるとき、研究者の発表でこの一帯に数種の貴重な鉱物(こうぶつ)が埋まっていることがわかると、それを契機に両者の関係はこれまでとは一変した。

いきおいその資源をもとに自治だ、独立だと奮い立つ住民に対して、大事な資源を手放してなるものかと政府も譲らない。対立は溝を深め、五年前には青年たちが起こしたちょっとした抗議行動がきっかけとなりいよいよ武力抗争にまで発展してしまった。

村の近辺に頻繁に軍隊が駐留するようになり、収穫を控えた畑が戦車や軍用車に踏み荒らされることもあった。どこからか大量の土嚢が運びこまれ、ある時は農業用の水路が土砂に埋まり、果樹を枯らすような被害さえ出た。

紛争は断続的に三年も続き、結局のところ鉱物を掘削(くっさく)する費用を政府が負担する代わりに国が約八十パーセントの資源を得るという案で合意し、二県は念願の自治権を獲得した。

両者の狭間にあってなんの関係もなかったこの村の住民には均一の損害賠償金が支払われたが、期待した額からはほど遠かった。しかもそれを手にして商売屋の多くはさっさと他へ移り住んだため、農業に従事する者たちはいっそう寂(さび)れてしまった村に取り残されることになった。

新しい地図に、仮に国境の線を引くとすれば、この村はその線の下に塗りつぶされてしまうようなところにある。紛争が終結して二年が経ち、自治県はめざましく変わりつつあるというのに、巻きこまれたこの村だけが復旧はおろか、その存在すら忘れられようとしていた。

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次回更新は10月29日(火)、21時の予定です。

 

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