ベスト・オブ・プリンセス
その日の夜、私はダンスの練習に音源とそれを編集することが必要であると両親に伝え、ノートパソコンを買い与えてもらうことに成功した。そしてその翌日の放課後、前の日の練習に行かなかったことを詫びるのと同時に、音源の編集と用意をこれからは自分が中心にやることを伝えると、昨日ロッカールームにいたふたりも含めた部活動のメンバーから、さすが美夏! と歓喜の声が上がった。その時の安堵を、私は今でも忘れられない。
「遅いよ!」
母がパソコンを持ち出してから数十分後、おずおずと私の部屋までパソコンを返しにきた母に、私は感情的に声を荒げ、すぐに文化祭に必要な音源データの作成と修正に取り掛かった。私の怒声に、またしても母は何も言わずにひっそりと部屋から去っていった。
数時間後、細かな修正なども含めた作業が終わり、パソコン内のデータを整理していると、先ほど母がパソコンに移した画像ファイルが目に入った。
母が旅行に出かけたのは二週間ほど前のことだった。
私が生まれてからはもちろん、父と結婚して以来、家族以外との旅行をするのは初めてのことだったため、旅行に行く旨を父に伝えたとき、父は大層驚いていたが、国内の日帰り旅行であることと同行者を告げると、九条さんによろしくな、と快く母を送り出した。私はすでに文化祭のことで頭がいっぱいで、母とミユキさんの旅行など気にも留めていなかった。
画像フォルダを開くと、母とミユキさんが旅行先に選んだのは京都だということがわかった。私も修学旅行で京都には訪れたことがあり、見覚えのある観光スポットの写真や鴨川沿いの景色、大乗寺のスイフヨウや貴船神社の秋明菊、源光庵のすすきや少しだけ色づいた紅葉が並んでいた。風景の写真だけでなく、清水寺の近くで陶芸体験をするふたりの姿もあり、数年ぶりに見たミユキさんは、焦げ茶色のミディアムロングのウルフカット、白の花柄のブラウスに黒のテーパードパンツという出で立ちだった。
よく私の家に遊びに来ていたときのような、無邪気でどこかミステリアスな笑顔ばかりだった。
画像フォルダを一通り見終え、パソコンの電源を落とそうとしたとき、デスクトップのごみ箱フォルダに何かが入っていることに気が付いた。
間違えて何かの音源データを捨ててしまったのかもしれない。
そう思った私は、慌ててごみ箱フォルダをダブルクリックすると、そこには一枚の写真だけがあった。そして私は愚かにも、その写真ファイルを開いてしまったのだ。
これは、見てはいけないものだ。