事故を見た記憶は消えていた。辺り一面に咲くすずらん。小さな花は風に吹かれてひっきりなしにそよいでいるのに、耳をふさがれてでもいるかのように音がしない。その不思議な無音の世界を亜美が意識した途端、風の音がした。 ─亜美─「お父さん」姿はないがそれはまぎれもなく雄一の声だった。温泉宿は消え、辺りは見渡す限りのすずらん。「お父さんどこ?」心細くなってもう一度呼ぶが返事はない。あきらめて歩き出す亜美。し…
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